ペルソナ・カスタマージャーニーはなぜ必要なのか?

ペルソナやカスタマージャーニーが不要といわれる理由と、実務で活用するための考え方を整理します。

UX Research Strategy

「ペルソナを作っても、結局使わないよね」

「カスタマージャーニーマップは、作っただけで終わりがち」

マーケティングやWebサイト制作の現場で、こうした声を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

実際、時間をかけて作ったペルソナシートが、その後ほとんど参照されないケースはあります。ワークショップでは盛り上がったものの、プロジェクトが始まると存在を忘れられてしまう。そんな経験があれば、「そもそも作る必要があるのか」と感じるのも無理はありません。

ただし、そこで考えたいのは、本当にペルソナが不要なのか、それとも作り方や使い方に問題があったのか、ということです。

この記事では、ペルソナやカスタマージャーニーに対して不要論が出る理由を整理しながら、それでもなお必要だと考える理由を解説します。

そもそも、ペルソナ・カスタマージャーニーとは

ペルソナとは、自社の商品やサービスを利用する典型的な顧客像を、一人の人物として具体的に描いたものです。

年齢や職業といった基本情報だけではありません。どのような悩みを抱えているのか、普段どのように情報を集めているのか、何を基準に商品やサービスを選ぶのか。そうした行動や価値観まで含めて整理します。

一方、カスタマージャーニーは、その顧客が商品やサービスを知り、興味を持ち、比較・検討し、購入や利用に至るまでの流れを可視化したものです。

それぞれの段階で、顧客が何をしているのか、何を考えているのか、どのような感情を抱いているのか、企業とどこで接点を持つのかを時系列で整理します。

簡単に言えば、ペルソナは「誰に届けるのか」を考えるためのもの。カスタマージャーニーは、「その人がどのような体験をたどるのか」を考えるためのものです。

この2つは、セットで考えることでより機能します。

似ているようで、役割は異なる

ペルソナとカスタマージャーニーは一緒に使われることが多いため、同じような資料だと思われることがあります。しかし、実際には確認する対象が異なります。

ペルソナが扱うのは、顧客の置かれている状況や目的、価値観、判断基準です。対してカスタマージャーニーが扱うのは、時間の経過に沿って変化する行動、感情、接点、課題です。

例えば、同じ担当者であっても、サービスを知った直後と、複数社を比較している段階では、必要としている情報が違います。導入を決めた後には、検討段階とは別の不安や疑問も生まれます。

ペルソナだけでは、こうした時間による変化を十分に捉えられません。一方で、カスタマージャーニーだけを作っても、その行動を取っている人物の背景が曖昧であれば、表面的な行動の整理に留まってしまいます。

「誰が」と「いつ、どのような状況で」を組み合わせることで、初めて具体的な体験を考えられるようになります。

必要な情報の細かさは、目的によって変わる

ペルソナには、名前、年齢、家族構成、趣味など、多くの情報を記載する形式があります。しかし、すべてのプロジェクトで詳細な人物設定が必要なわけではありません。

BtoBサービスであれば、年齢や休日の過ごし方よりも、所属する組織、担当業務、決裁への関与、評価される指標、社内で抱えている制約のほうが重要です。

日常的に使うアプリであれば、利用する時間帯、場所、端末、利用頻度、前後に行っている行動などが体験設計に影響します。

大切なのは、人物像を細かく描くことではなく、これから行う意思決定に必要な情報を選ぶことです。施策に影響しない情報を増やしても、資料が複雑になり、かえって使いにくくなります。

なぜ「ペルソナやカスタマージャーニーは不要」といわれるのか

ペルソナやカスタマージャーニーに対する批判には、それなりの理由があります。

作ること自体が目的になってしまう

よくあるのが、ペルソナシートやカスタマージャーニーマップを完成させることがゴールになってしまうケースです。

ワークショップを開き、付箋を貼り、きれいな資料にまとめる。そこまでは熱心に取り組んだものの、その後の会議や施策の検討では一度も使われない。

これでは、「何のために作ったのか」と感じてしまいます。

ただ、これはペルソナが役に立たないというよりも、作成後にどう使うのかが決まっていなかったことが問題です。

想像だけで作ると、現実の顧客とズレてしまう

アクセスデータや顧客インタビューを確認せず、社内の想像だけで作ったペルソナは、実際の顧客とは異なる人物になりがちです。

特に注意したいのが、自社の商品を好意的に受け入れてくれる「都合のよい顧客像」を作ってしまうことです。

そのようなペルソナを前提に施策を考えても、実際の顧客には響きません。成果が出なければ、「やはりペルソナは意味がない」と感じてしまいます。

しかし、問題はペルソナという手法ではなく、根拠となる情報が不足していたことにあります。

顧客は多様で、一人には絞れない

「自社の顧客にはさまざまな人がいるため、一人のペルソナにまとめるのは無理がある」という意見もあります。

実際、顧客が複数のセグメントに分かれるサービスは珍しくありません。利用目的や課題、商品を選ぶ基準が大きく異なる場合もあります。

ただし、ペルソナはすべての顧客を一人にまとめるためのものではありません。優先して向き合うべき顧客像を明確にするためのものです。

必要であれば、複数のペルソナを設定しても問題ありません。大切なのは、「今、誰に向けて考えているのか」がチームの中で共有されていることです。

こうして見ていくと、不要論の多くは、ペルソナやカスタマージャーニーそのものへの批判ではありません。

実際には、作り方や使い方がうまくいかなかった経験から生まれていることが多いのです。

それでもペルソナ・カスタマージャーニーが必要な3つの理由

理由1:プロジェクトに関わる人の目線を合わせられる

一つのプロジェクトには、マーケター、デザイナー、エンジニア、営業担当者、経営層など、立場の異なる人が関わります。

全員が「顧客のために」と考えていたとしても、それぞれが頭に思い浮かべている顧客像が同じとは限りません。

マーケターは情報収集に積極的な30代の担当者を想定し、営業担当者は決裁権を持つ50代の責任者を想定しているかもしれません。

この状態で話し合っても、意見がかみ合わないのは当然です。

ペルソナとカスタマージャーニーを言葉や図にして共有することで、チーム全員が同じ顧客像と同じ利用プロセスを前提に話せるようになります。

「誰の、どのタイミングにある、どのような課題を解決するのか」

この問いを共通の言葉で話せるようになることが、ペルソナやカスタマージャーニーの大きな価値です。

理由2:施策を判断する際の拠り所になる

プロジェクトを進めていると、さまざまな場面で判断が必要になります。

トップページでは何を最初に伝えるべきか。

どの機能から開発するべきか。

広告では、どのメッセージを打ち出すべきか。

明確な判断基準がなければ、声の大きい人の意見や、その場にいるメンバーの好みで決まってしまうことがあります。

そのようなとき、ペルソナやカスタマージャーニーが判断の拠り所になります。

例えば、比較検討の段階にいる顧客が価格よりも導入後の効果を気にしているのであれば、料金情報だけでなく、導入事例や具体的な成果を優先して掲載するべきだと判断できます。

もちろん、ペルソナだけですべてを決められるわけではありません。事業戦略やコスト、技術的な制約も考慮する必要があります。

それでも、顧客の視点に立ち返るための基準があるだけで、意思決定の質とスピードは大きく変わります。

理由3:結果として、プロジェクトが進めやすくなる

関係者の目線がそろい、判断の基準が明確になると、プロジェクト全体も進めやすくなります。

目線が合っていないチームでは、施策をある程度進めた段階になってから、「そもそも誰に向けたものなのか」という議論に戻ることがあります。

判断軸が共有されていなければ、会議のたびに同じ議論を繰り返し、なかなか結論が出ないこともあります。

ペルソナやカスタマージャーニーは、こうした手戻りや議論の停滞を減らすための土台になります。

作成には一定の時間がかかります。しかし、その後数か月にわたって続くプロジェクトの中で、認識のズレや判断にかかる時間を減らせるのであれば、十分に意味のある投資だと考えられます。

実際のプロジェクトでは、どのように役立つのか

ペルソナやカスタマージャーニーの価値は、資料を眺めているだけでは分かりにくいものです。実際には、プロジェクトのさまざまな場面で、議論を具体化するために使います。

Webサイトのリニューアルで使う

Webサイトのリニューアルでは、社内から多くの要望が集まります。会社の強みを伝えたい、サービス情報を増やしたい、採用情報を目立たせたい、問い合わせを増やしたい。すべてを同じ優先度で扱うと、情報量が多く、誰に向けたサイトなのか分かりにくくなります。

そこで、優先するペルソナとカスタマージャーニーをもとに、各ページやコンテンツの役割を整理します。

初めてサービスを知った人には、細かな機能説明よりも、自分の課題と関係があるサービスなのかを理解できる情報が必要かもしれません。比較検討している人には、他社との違い、支援範囲、実績、進め方が重要になります。問い合わせ直前の人には、費用や期間、依頼できる範囲に関する不安を解消する情報が求められます。

このように利用段階ごとの目的を整理すると、「何を載せるか」だけでなく、「どの順番で伝えるか」「次にどのページへ案内するか」まで判断しやすくなります。

新しい機能を検討するときに使う

新機能のアイデアが複数ある場合も、ペルソナとカスタマージャーニーが判断材料になります。

機能の数を増やすことではなく、ユーザーが目的を達成するまでのどこに問題があり、その問題を解決するために何が必要なのかを考えます。

例えば、入力フォームからの離脱が多い場合、単に入力項目を減らせばよいとは限りません。入力前に必要な情報が理解できていない、個人情報を送ることに不安がある、入力後の流れが分からない、といった理由も考えられます。

カスタマージャーニー上の前後の体験まで確認することで、画面単体ではなく、問題が生まれている構造を捉えられるようになります。

施策の効果を振り返るときに使う

施策を実行した後は、想定したペルソナの行動が本当に変化したかを確認します。

アクセス数やコンバージョン率だけでなく、どの段階で行動が変わったのか、想定していなかった迷いや離脱がなかったか、新しいユーザー層が利用していないかを見ます。

結果が仮説と異なっていた場合は、施策だけでなく、ペルソナやカスタマージャーニーの前提も見直します。作成した資料を正解として守るのではなく、現実のデータに合わせて更新することが重要です。

「使われるペルソナ」にするためのポイント

ペルソナやカスタマージャーニーを形だけの資料にしないためには、作成方法と運用方法の両方を考える必要があります。

データと顧客の声をもとに作る

アクセス解析や購買データ、顧客インタビュー、営業担当者やカスタマーサポートへのヒアリングなど、できる限り事実をもとに作成します。

すべての情報を完璧に集める必要はありませんが、少なくとも社内の想像だけで作らないことが重要です。

データから見える行動と、顧客の言葉から見える背景や感情。その両方を組み合わせることで、より現実に近い顧客像になります。

最初から完璧なものを作ろうとしない

精度の高いペルソナを作ろうとするあまり、作成に時間をかけすぎてしまうことがあります。

しかし、顧客の行動や市場の状況は変化します。最初に作ったペルソナが、ずっと正しいとは限りません。

まずは現時点で得られる情報から仮説として作り、実際の施策結果や新しい顧客の声をもとに更新していくほうが現実的です。

ペルソナは、一度完成させたら終わりの資料ではありません。プロジェクトとともに育てていくものです。

意思決定の場で実際に使う

ペルソナを作った後は、会議や施策レビューの中で意識的に使う必要があります。

「この内容を見たとき、ペルソナはどう感じるだろうか」

「これはカスタマージャーニーのどの段階にいる人への施策なのか」

「この課題は、本当に優先度が高いのか」

こうした問いを日常的な議論に取り入れることで、ペルソナは飾りではなく、意思決定のための道具になります。

資料を共有フォルダに置くだけでは使われません。実際の会話や判断の中に持ち込むことが大切です。

必要であれば複数のペルソナを設定する

顧客の目的や課題が明確に分かれている場合は、複数のペルソナを設定しても構いません。

ただし、数を増やしすぎると、今度は誰を優先するべきか分からなくなります。

複数設定する場合も、事業への影響や顧客数、解決すべき課題の大きさなどを踏まえ、優先順位を明確にしておくことが重要です。

「一人に絞れないから作らない」のではなく、「複数いるなら、どの顧客から向き合うのかを整理する」と考えるとよいでしょう。

作成から活用までの具体的な進め方

ペルソナやカスタマージャーニーを実用的なものにするには、最初から資料の形式を決めるのではなく、プロジェクトで必要な判断から逆算して進めます。

1. 何を判断するために作るのかを決める

まず、ペルソナやカスタマージャーニーを使って何を決めたいのかを明確にします。

Webサイトで優先して伝える情報を決めたい。

新しいサービスの対象ユーザーを整理したい。

利用開始後の離脱を減らしたい。

部署ごとに異なる顧客認識をそろえたい。

目的が明確であれば、必要な調査や記載する情報の範囲も決めやすくなります。

2. すでにある情報を集める

アクセス解析、購買データ、問い合わせ内容、営業記録、カスタマーサポートの対応履歴、既存の市場調査など、社内にある情報を集めます。

部署によって保有している情報が異なることも多いため、マーケティング部門だけで完結させず、営業、開発、運用など複数の関係者から話を聞くことが大切です。

この段階では、情報をきれいにまとめることよりも、分かっていることと、まだ分かっていないことを分けることが重要です。

3. 顧客に直接確かめる

社内の情報だけでは分からない部分は、ユーザーインタビューやアンケート、行動観察などで確認します。

「この機能が欲しいですか」と直接聞くだけではなく、どのような状況で困ったのか、そのとき何をしたのか、ほかにどのような方法を検討したのかを聞きます。

具体的な経験を聞くことで、本人も意識していなかった判断基準や制約が見えてきます。

4. 共通する行動や課題を整理する

集めた情報から、複数の顧客に共通する目的、行動、悩み、判断基準を探します。

すべての違いをペルソナの数に反映する必要はありません。施策や体験を変えるほど重要な違いかどうかを基準に分類します。

例えば、年齢が違っていても、利用目的や選定基準が同じであれば、一つのペルソナとして扱える場合があります。反対に、同じ年代でも利用目的や意思決定の流れが大きく異なるなら、分けて考えたほうがよいでしょう。

5. カスタマージャーニーへ展開する

ペルソナの目的を起点に、サービスを知る前から、利用し、継続するまでの行動を並べます。

各段階について、行動、考えていること、感情、企業との接点、困っていることを整理します。そのうえで、改善すべき課題や新しい体験を提供できる機会を見つけます。

企業側が用意している接点だけで考えないことも重要です。ユーザーは検索、比較サイト、口コミ、社内相談など、企業が直接管理できない場所でも判断しています。

6. 施策と担当者へつなげる

カスタマージャーニー上で見つけた課題を、具体的な施策へ変換します。

Webサイトの情報追加、導線改善、機能開発、営業資料の見直し、オンボーディングの改善など、必要な取り組みを整理し、優先順位、担当者、検証方法を決めます。

この段階までつなげることで、ペルソナとカスタマージャーニーは調査資料ではなく、プロジェクトを動かすための基盤になります。

ペルソナを作らなくてもよい場合

すべてのプロジェクトで、詳細なペルソナシートや大きなカスタマージャーニーマップを作る必要はありません。

対象ユーザーが明確で、チーム内の認識もそろっており、解決する課題が限定されている場合は、簡単な利用シナリオやユーザーフローだけで十分なことがあります。

短期間の小さな改善であれば、調査結果から重要な行動や課題だけを数行にまとめる方法もあります。

反対に、複数の部署が関わる、新規事業で前提が定まっていない、顧客との接点が多い、意思決定が何度も停滞している、といったプロジェクトでは、共通認識をつくる道具として大きな効果を発揮します。

重要なのは、「ペルソナを作るか、作らないか」という二択ではありません。プロジェクトを前に進めるために、どの程度のユーザー理解を、どのような形で共有する必要があるかを考えることです。

まとめ:不要なのは「作って終わりのペルソナ」

ペルソナやカスタマージャーニーが不要だといわれる背景には、「時間をかけて作ったのに、結局使われなかった」という失敗があります。

しかし、その原因は手法そのものではなく、根拠のない想像で作ってしまったことや、作成後の使い方を決めていなかったことにあります。

顧客のデータや声をもとに作り、プロジェクトの中で継続的に使うことができれば、ペルソナとカスタマージャーニーは大きな力を発揮します。

チームの目線をそろえる。

施策を判断するための拠り所をつくる。

認識のズレや手戻りを減らし、プロジェクトを前に進める。

ペルソナやカスタマージャーニーは、作ること自体に意味があるのではありません。

日々の議論や意思決定の中で使い、顧客への理解が深まるたびに更新していく。そうして初めて、プロジェクトを支える実用的な道具になります。

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